里葎子さんは仕事が早い。

『ちょっとどういうこと!? 本当なの?』

夕食時で忙しいはずなのに、電話はメッセージを送って間もなくかかってきた。
実際忙しいらしく、背後で旦那さんと咲月ちゃんがなにやら大騒ぎしている。

「やだな、里葎子さん。カッパなんて嘘に決まってるじゃないですか。今日はエイプリルフールですよ?」

『ついにカッパを捕らえました!』
またつまらない嘘をついた4月1日。
捕らえたカッパでせっせと海苔巻きを作った。
酢飯は面倒だから普通の白ごはんだけど、ツナマヨも一緒に巻いたから味はなかなかおいしい。

「上手だなー」

「スーパーで働いてる友達にコツを聞いたの。海苔の端までごはんを敷いて、ごはんとごはんを合わせるように巻くのがポイントなんだって」

しみじみと晴太が感心してくれたのがうれしくて、聞かれてもいないことまで嬉々として披露する。

「カッパ、うまいね」

ただのキュウリだとバカにせず、さらにひとつ放り込んだその顔を携帯で撮影した。
そして、どうだ里葎子さん! 私の彼氏はダメ男じゃないぞ! という気持ちを込めてその写真を送り付けた。
その直後の電話だ。

『カッパの話じゃなくて彼氏のこと!』

「彼氏できたのは常々言ってるじゃないですか」

『その彼氏が小川君だなんて聞いてない!』

「小川君?」

首をかしげながら晴太を見ると、呼ばれた本人はちょうど4つ目の海苔巻きを飲み下したところだった。

『小川晴太君でしょ? 私の同級生なの』

「ええーーー!! うそーーー!!」

『私はエイプリルフールなんてやらないよ』