苦しそうな、それでいて呼びかけるような･･････そう、昨日のあの声が聞こえた

黒髪をブンブンと振り回し、あたしの手にあたる

「いった･･････」

かなり勢いが強かったからか、一瞬だけ痛みを感じる

傷はないけど･･････こしょばゆかったな、少しだけ

「だから、何者なの？」

三人に被害が及ばないようにしなくては！

『おいで･･････おいでったらぁ！』

あたしの言葉には反応していない

ただ、おいでとしか言わない

何がやりたい？一体何がしたい？

「あたしたち･･････おいでって言われて素直についていくような人じゃないんだけど？」

わざと挑発するように言ってみる

キレるかな･･････と思ったけど、意外と温和な面があるのか、怒らない

寧ろ、黒髪を振り回すのをぴたっと止めたくらいだ

「ねぇ、何がしたいの？」

優しく呼びかけてみる

『娘を･･････娘を返せぇぇぇえええぇぇ!!!』

そう叫んで

女性はあたしの横を通り抜け、春香の腕を掴んだ

「え･･････？」

また春香?!

混乱した様子の春香の手首をがっしりと握りしめ、そのまま宙に浮遊する

「い、いたたっ」

片腕だけで春香は持ち上げられているからかなり痛いだろう

それに、あの女性

片手だけで、細身と言えど小学五年生の女の子を持ち上げるとは･･････

なんて馬鹿力！

「春香っ」

杏奈がすぐさま女性の方に片手を向ける

杏奈が彼女を睨んだ瞬間、ぴくっと女性の片腕が動く

それは、春香を掴んでいる方の手で

女性の腕の力が抜けたかと思うと、春香が落下する

落ちる･･････と思ったけれど、ギリギリのところで杏奈がもう片方の手を春香に向け、浮遊が発動した