「絵は描いたものが〝絵〟になるんじゃなくて、紙に描かれたもの全部のことを〝絵〟って言うんだよ」

「……?」

「つまりさ、描かれてない余白も絵の一部ってこと」


そう言われてハッとした。なぎさ先輩が言うように私はメインのリンゴばかりに集中していて、周りの白い部分のことなんて考えてなかった。



「リンゴの大きさも大事だけど、作品として余白をどれぐらい残すのかも大事なんだ。そういうバランスを最初に考えて描くといいよ」

先輩のアドバイスのおかげで、絵に対する考え方が変わった気がする。


先輩はそのあとも丁寧に教えてくれて、まずは自分が描きたい構図を決めること。そして輪郭線を描き、細部の陰陽をひたすら書き込むと、より立体感が生まれるそうだ。


教えてもらったとおりにバランスを考えながら輪郭線を描き、リンゴの艶や細かい模様などを書き込んでみたけれど……なんだか上手くいかない。


「どこから光りが当たってるか意識してみて。ほら、こうやって影は強弱をつけながら……」と、なぎさ先輩が背後から私の手に触れた。