「それって褒めてる?」

「めちゃくちゃ褒めてますよ!」

どうしようと、あたふたしてしまう私とは大違いだから羨ましい。


「うーん。でも空気読めないってけっこう言われるけどね」


まあ、勘違いされちゃうところもありそうだけど。空気を読めるからこそ、違う話題にしたり、違うほうに目を向けさせたりしてるんじゃないかなって、私は思う。


「そんなことよりデッサンの続きやらないと笹森に怒られるよ」


た、たしかに……。でもまだコツが掴めないというか、鉛筆の力加減もよく分からないし、どう進めたらいいのかを相談したら、なぎさ先輩は自分の絵を放置して私のイーゼルの横に来てくれた。


「え、なんでナス描いてんの?」

私の歪んだ線が先輩にはナスに見えたらしい。
せめて洋梨と言ってほしかった。


「一応リンゴですよ。でもリンゴをどのくらいの大きさで描いたらいいか分からなくて……」

実物大を描こうとしたら小さい気がするし、大きくしようとすると、やっぱり形が歪んでしまう。


「とりあえずナスは消すね」

先輩は練り消しで、スケッチブックを真っ白な状態に戻した。


「リンゴだけを上手く描こうとするのが、そもそも間違いだよ」

「どういう意味ですか?」

指定されたものを、いかにリアルに描けるかがデッサンじゃないの?