そんなふたりを見て、なぎさ先輩は静かに窓から離れた。そして立て掛けてあった画板を手にとると、学校のものではない自分の道具をカバンから出す。
「それなんですか?」
遠くからだと小さめのスケッチブックにも見えるけれど、なんだか妙なところに穴が空いてるし、形も正方形ではない。
「パレットだよ」
「え、これがパレットですか?」
私が持っているパレットはプラスチックで開閉式のものなのに、先輩のはプラスチックどころかペラペラの紙だ。
「紙パレットだよ。使い捨てだしラクだよ」
「そんなものがあるんですか?」
「うん。アクリル絵の具は特に固まるのが早いし、パレットを洗ってもなかなか綺麗に落ちないから」
紙パレットの表面は光沢がありツルツルとしていた。穴が空いていた箇所には親指を入れて、どうやら持ちながら描けるみたいだけど、画板を床に置いてしまう先輩には関係ないようだ。
「なぎさ先輩って、周りのことをよく見てますよね」
パレットにブルーの絵の具を出している先輩に問いかける。
「んーなにが?」
「なんていうか、のほほんとした雰囲気を作るのが上手です」
日向で気持ち良さそうに寝ていた三宅さんのように、誰が見ても和んでしまう空気を先輩は持っているのだ。