静寂に包まれる部屋。天音くんは気まずそうに原稿用紙をカバンの中に入れると、そのまま逃げるように廊下へと出て行ってしまった。


その姿に松本先輩は深いため息をついて、笹森先輩は困った顔をしている。


……どうしよう。ここは同じクラスメートとして引き止めに向かったほうがいいだろうか。

イーゼルの載置台(さいちだい)の部分に鉛筆を置こうとすると、「追いかけないほうがいいよ」と、隣からなぎさ先輩の声。


「今はそっとしておいてあげな」

その言葉に、立ち上がろうとしていた私の体勢が元の位置に戻った。


四人になった部屋ではまだピリピリとした空気が続いている。

とりあえず私はデッサンに集中しないととスケッチブックと見つめ合うけれど、なんだか瑞々しかったリンゴも萎(しな)びているように感じて、観察しながら描いたはずなのに洋梨のような形になってしまった。


「ねえ、みんな見て」

そんな時、やっぱり空気を変えてくれるのは、なぎさ先輩だった。


「藤田先生、また保健室の先生のことナンパしてるよ」


なぎさ先輩は窓のフチに寄りかかるようにして外を見ている。

釣られるように松本先輩と笹森先輩が続き、私も同じように窓を覗いてみた。