「おい、天音。笹森を困らせるなよ!」

笹森先輩に軽くあしらわれているイメージがあった松本先輩だけど、こういう男らしい一面もあるようだ。

すると天音くんは反抗心な目で松本先輩を見る。


「僕には僕のやりたいことがあるんです」

「やりたいこと?じゃあ、言ってみろよ」


強く問われた天音くんは少し沈黙になったけれど、ゆっくりとその唇を動かした。


「……漫画です。漫画研究部がなかったので、絵を自由に描けると思って僕は美術部に入ったんです」

……天音くんが漫画?

言われてみれば教室でもこそこそとノートになにかを描いている姿は目撃したことがある。まさか漫画だったなんて、想像していなかったけれど。


「それとも漫画は絵を描くという部類には当てはまらないんですか?」

次に強い口調で返したのは天音くんのほう。


「いや、漫画も立派に絵を描くってことだよ。でも部活は部活でちゃんとやろうぜって話。デッサンだって漫画描くには必要なことだろ?」

「僕はすでに独学で勉強しました。だからデッサンに狂いはありません」

「へえ」


自信満々な天音くんに対して、松本先輩が軽く流す。そして机の上に隠すように置かれていたクリアファイルを見つけると、「じゃあ、どういう漫画描いてるか見せてみろよ」と、松本先輩が手を伸ばした。

クリアファイルから天音くんが描いた原稿用紙を一枚抜き取ろうとすると……。


「汚い手で触るな……!!」

天音くんの叫び声が美術室にこだまする。