「ねえ、どこ行くの?もうすぐ掃除の時間が始まるんだけど・・・。」

無言で前を歩いていく広瀬。
遅れまいと時々小走りながら真央は着いていく。

( 体育館・・・? )

広瀬は上履きを脱ぐと、体育館に入って行った。
真央も同様に上履きを脱ぐと、広瀬は真っ直ぐステージ上の左端にあるピアノの方へ行った。
そして、無言でピアノの椅子を2つ並べ、そのうちの1つに座った。


「何してるの?」

「まあ座れよ。」
そう言われ、真央は広瀬の右側に座った。

「ピアノ弾くの?」

「教えてくれ。」

「ああ教えてほしいんだね。ええと・・」

そう言って真央は滑らかに音楽の授業の課題曲を弾く。

「・・・ピアノは習っていたのか?」

「うん、少しね。」

「どこで?」

「前は私ここよりもずっと都会に住んでて、その時に習ってた。」

「えっ、都会ってどこ?何県?何歳ぐらいから?」

急に目を見開き質問攻めをする広瀬に、真央は少し驚いた。

「いきなりどうしたの?」

「・・・・いや。」
そういうと、急に我に戻ったかのように広瀬はゆっくりと目線を真央から鍵盤の方へ向けた。
なんだかその様子が少し寂しそうで、真央は気になった。

それから真央は広瀬にピアノを教えているが、広瀬はのみこみが早かった。

また 広瀬が弾いている時にふと横を見ると、その整った横顔に見惚れてしまいそうになった。
いや、本当は見惚れていた。

だから、広瀬がピアノを止めたことも、同時に誰かが真央を呼ぶ声も気づかなかった。