泡鈴の反応が無いのを確かめて、舜英はその場を後にした。

一人残されは泡鈴は、空虚な宮殿に向かって静かに激しく言葉をこぼした。 
「どうか、潤蘭様。姫をお守りください。姫を殺させないでください!!」

誰もいない宮殿に悲痛な叫びが響いた。

 

 広い宮中には4つの宮殿があり、その中で最も広いのが国王の住む王宮で、それは他の宮殿とは別格なる雰囲気を醸していた。

舜英は、その王宮の王の自室で王を待っていた。国王に疎まれていると噂のある王の庭で一人でいるのはとてもいきのつまるものだった。

暫くして扉の外に宦官の声が響いた。
「国王陛下の御成りに御座います。」

重厚な扉が重々しく開き、灯国国王が入ってきた。
舜英は恭しく頭を下げ国王が席につくのを待っていた。

椅子にドカッと座り、フンと一息吐いた後国王は舜英にやっと目を向けた。

「久しいな、舜英」

王の威厳を感じさせる重い声が室に響いた。

「はい、お久しぶりで御座います。陛下」

舜英は頭を下げたまま、口を開いた。

「今日、ここへ呼ばれた訳をそなたなら予想がついておろう。」

王の言葉に舜英は息を呑んだが、王の求める回答を答えるため口を開いた。

「私は、王族として生まれた以上この国の為ならばいかなる仕打ちも、命令も喜んで受け入れる覚悟はできております。」

怯えを見せぬよう、厳格な父に劣らぬようはっきりと太い声で言った。
そして、一層大きくはっきりとした声で続けた。

「どうか、ご躊躇なさらずに私を切り捨ててください。」

王の室にその凛とした声が響いた。王は暫く何も言わなかった。