舜英と、泡鈴が去った王の室。その奥の部屋に灯国の国王はいた。

「陛下、呂粋です。」

扉の外で国王付きの宦官、呂粋が入室を願った。

「入れ」

先程とは打って変わって弱弱しい声で呂粋を招き入れた。

呂粋は扉を開けて室に入ってきた。その後には灯国軍の正装である白銀の糸で刺繍された龍があしらわれた服を着た一人の軍人が立っていた。

「連れてまいりました。今回の任務には彼が適任かと。」

呂粋は、その男を国王に紹介した。

「白扇#__はくせん__#と申します。」

軍人の男は白扇と、名乗り国王の目を真っ直ぐに見ていたが、その目には何処か殺気を含み怨みの篭った色をしていた。

「ほぉ、中々良い目をするではないか白扇とやら。年はいくつだ」

国王もまた、白扇の瞳を真っ直ぐ見つめた。

「29です。灯国軍には15で入りました。」

「あぁ。知っておる。そなたは潤蘭についてやってきた、愚かな子供だった。」

国王は、白扇から視線をそらし何処か遠くを見ていた。まるで、真に言いたいことを避けるように無意味な会話を続けた。そして、幾分かして痺れを切らした呂粋が国王を促した。

「陛下、そろそろ本題を。」

国王は、重いため息をつき白扇を見つめた。

「そなたへ王命を下す。我が娘舜英を殺せ。」

白扇は、目を見開いた。

白扇は、元々泡鈴と同じく潤蘭に付き従い灯国へ入った。
仕えた主の愛子を殺せと、そう言われハイそうですかと殺せるほど人間を捨ててはいない。

国王を前に沸々と沸き上がる怒りを抑えきれずにいた。