「こっちは平気。吉崎くんはこの後会議でしょ?」

改めて山田さんに頼まれた書類をひらひらと振って笑った。

同じ年に入社して同じ営業課に配属されてから丸1年。
営業アシスタントとして日々なんとか仕事についていってるだけの私と違って、吉崎くんは初めから営業職のホープとしてバリバリ仕事をこなしているのを間近で見てきた。
今日の会議だって、課長や主任から直々に『勉強になるから出てみろ』と言われていた。
仕事の要領も良くて、上司からの覚えもいい彼は、男性にも女性にも信頼される正真正銘の人気者だ。

(吉崎くんの方が、絶対仕事大変なのに)

ふっと心が温かくなるのを感じたが、吉崎くんはちょっと不満そうに口を曲げた。

「…。藍里さんが大丈夫なら、いいけど。」

最大級の爆弾に、慌てて周囲を見た。

「吉崎くんっ!」

幸い、私たちの周りの机はほとんど無人だった。

「みんな外回り。」

吉崎くんは意地悪く笑うと、「じゃ、いただきます」とカップにストローを挿してコーヒーを飲んだ。