「…楠君は…まだ帰らないの?」


楠君の視線を反らしたくて聞いたけど、私の方は見ずに


「もうちょっとしたら帰るよ」


と絞り出すような声で言った。


奈々ちゃんが見えなくなると楠君は私の方を向いてくれた。


振り向いてもらえない辛さ、少しだけ分かった気がした。



「恋愛小説ってみんなハッピーエンドだよね…
失恋で終わる話ってないのかな?」


「………あるよ」


「へぇ、読んでみたいな。」


「…読むと辛くなるよ?」


私の言葉に一瞬だけ楠君の表情が曇った。

でもすぐに笑顔を作って


「そう?そんなもんなの?
やっぱ恋愛物はパスだな。
読むならミステリーとか推理物がいいかな」


って明るく言った。



それからしばらく二人で本の話をした。


楠君は難しい本をたくさん読んでるらしい。


私にはさっぱり分からないジャンル。


でも楠君が話すと面白そうに思える。


もっともっと話がしたい。

色んな楠君を知りたい。

そう思ってた。