放課後、一人で教室にいたら楠君がやってきた。


どこか淋しそうな横顔が気になって、初めて自分から声をかけてみた。



「どうしたの?」


楠君は少し引き攣ったような笑顔を私に向けてくれた。


「帰りたくなくてさ。
あんたこそ一人で何してんの?」


「私は…本読んでた」


本当は楠君の手紙を何度も読んでた。

読み返す度に楠君の気持ちが自分の事みたいに思えて、何度も何度も読み返してたんだ。


でもそんな事言えるわけがない。


「へぇ、読書か。
どんな本読んでるの?
面白い?」


「…どうかな?
恋愛小説だから…」


私の席に近付いてくるから、心拍数が急激に上がって心臓が口から出てくるんじゃないかって思った。


「まだ帰らないの?」


楠君は窓の外を見ながら呟くように言った。


視線の先には校庭を並んで歩く奈々ちゃんと彼の姿があった。


痛々しい横顔だった。