振りほどけるわけなかった…。
拒む理由もなかった…。
私は泰志にキスされたかったから。
泰志が言ってくれたの。
「俺のファーストキス」
泰志の最初…
嬉しくてくすって笑っちゃった。
「付き合おう…?」
何か勇気を貰えた気がして私の口が動いた。
泰志が照れ臭そうに
「うん」
って言ってくれて
その日 私とあいつの記念日が生まれた。
――寒い1月の夜
初めて泰志と一つになった。
暖かくてフワフワで
抱きしめられた腕が硬かった。
ここが私の居場所。
そう、ずっと思ってた。
あの『彼女』の存在に気付くまでは……
あの時私は信じればよかったんだ。
好きだからこそ
信じなきゃいけなかったんだ。
そしたら今も暖かい場所にいれてたかもしれないね。
なのに私は
泰志を失う怖さから
泰志を責めてしまった。
「死んじゃえ…」
付き合って2ヶ月が経ち、3月…
初めての誕生日を迎える。
19歳――。
泰志は旅行に連れていってくれた。
大分県にある温泉街。
二人で混浴は出来なかったけど
すごい嬉しかったよ。
誕生日プレゼントにネックレスをくれたね。
照れながら「お揃いなんだよ」って
きっと一生懸命選んでくれたのかな?
私の大好きなハート型。
2人で1つのハートの形。
一生大切にするからね。
私は毎日付けてたよ。
泰志は恥ずかしいからって2人の時にしか付けなかったね。
私的にたまにでよかったから普段も付けてほしかったな。
彼女がいるんだよ
らぶらぶだよって――。
言わない代わりに周りに感じてほしくて。
そんな思いがあったんだよ。
旅行に行ったことがきっかけで泰志のアパートにお泊りすることが多くなった。
その日もバイトが終わった後に、お泊りセットを持って泰志のアパートに泊まった。
泰志が一緒に入ろうってお風呂に誘ってきたけど、私はやっぱり恥ずかしくてその日は断った。
頬をぷくっと膨らませながら泰志は浴室に向かった。
それから少し時間が経った頃
泰志の赤い携帯が光った。
いつもはマナーモードにしてるのに
今日はメロディも流れた。
私は泰志の携帯を持って浴室に走った。
―コンコン
「やす~!電話鳴ってるよ~」
「ん~?分かった。そこに置いてて!」
数分後、泰志が携帯を手に部屋に戻って来た。
「…誰からだった?」
「うん…?姉貴」
私の質問に泰志が答えた。
泰志の嘘つき…
光った携帯と一緒に流れた曲が頭の中で流れてる。
だって泰志が悪いんだよ…
携帯を開いて置きっぱなしにしてたんだから…。
『佐山 響子』
お姉さんじゃない。
泰志が、片思いしてた
『彼女』――。
佐山響子 20歳
バイト始めたのが同期で年上を感じさせない位、おっちょこちょいな人だった。
当時泰志が片思いしてる時、実は彼女から相談を受けていた。
彼女が泰志の告白を断ることも実は知ってた。
だけど私はホントのところ2人の事に興味は無くて
何をするわけでもなく知らないふりをしていた。
私が『彼女』の存在に気付いたのは
付き合って4ヶ月経った頃だった―――。
ねぇ、何で嘘ついたの?
何であの人から連絡が来るの?
ねぇ
何で…?
私は何も言えないまま
その日も泰志と寝た。
「弥生…っ」
泰志が私の名前を呼びながら感じてくれてる。
それが嬉しくて
私も泰志の身体に足を絡める。
大丈夫…
きっと大丈夫――。
私は自分にそう言い聞かせた。