そこで初めて麗香さんが私に目線を寄越した。


「どなた?」


その一言は敵意を含めているのが良くわかった。思わず尻込みしてしまう。


「お前には関係ない。じゃぁな」
「患者が待っているのよ?」
「今日はもうやるべきことは終えてる」


藤堂先生は振り向きもせずに麗香さんに言い捨て、私の肩を支えながら病院を出ていった。


病院前に停まっていたタクシーに乗り込み、マンションの住所を告げる。ここからなら、20分程度で着くだろう。


「先生、仕事良かったんですか?」


窓の外を眺めながらボソッと聞くと、左手を藤堂先生が包むように掴んできた。


「別に俺は臨時で手伝いしているだけだから、大したことはしてないから平気」
「でも、今日は食事会だったんですよね? カンファレンスも抜け出したって……」


包まれた手を振り解くこともできずに、しかしなぜこんなことをするのかと聞くことも出来ずにいる。あぁ、本心はもう少し触れていたいと思っているのだ。