夜間受付で会計を済ませていると、藤堂先生が私服に着替えて戻ってきた。
そして、無言で私の手を掴んでくる。手を繋ぐ形になり、戸惑いを隠せない。
「先生……?」
「倒れたら大変だからな」
そんな事を言われたら振り解くことなんて出来ない。
どんな顔をしていいのかわからず、ただ俯いて繋がれた手に目線を落とした。
すると、廊下の先から白衣を着た女性が駆け寄ってくる。
「真紀! 急にカンファレンスを抜け出したかと思ったら帰るなんてどういうことよ」
麗香さんが怒った表情で藤堂先生の前に立った。
目の前に現れた麗香さんに、慌てて繋いだ手を振り解く。それに藤堂先生は怪訝な顔で私を見るが、目を会わせられなかった。
「悪い、麗香。急用が出来たから今日は帰る」
「帰るって……。このあと父と食事会なんじゃないの?」
「悪いな」
麗香さんの焦りに対し、藤堂先生は言葉のわりにはアッサリと答えている。まるで悪いとは思っていないかのようだ。