「いいの?」


「大丈夫だから。味がどうなってるか確認したいの」


もしかしたら自分の舌がおかしいのかもしれない。


最近少し無理をしていたから、味覚障害にでもなっているのかも。


しかし……。


から揚げを食べた2人はすぐに笑顔になった。


「すっごく美味しいよこれ!」


花梨は絶賛してくれている。


「うんうん。いいなぁ、健ってば毎日こんなにおいしいお弁当食べてるんだ」
「美味しい……?」


「もちろん」


杏は大きく頷いた。


それならあたしの味覚は正しいと言うことだ。


それなら、どうして健は食べてくれなかったんだろう。


ジワリと嫌な予感が胸をかすめた。


「どうしたの、ナツミ」


花梨がそう聞いてくるけれど、あたしは左右に首を振った。
「なんでもない。それ、2人で食べていいよ」


そう言い、あたしは空き教室を出た。


今までのお弁当と、今日のお弁当の違いは味じゃなかった。


だけど決定的な違いが1つだけある。


それは……あたしの肉を入れていない事。
両想いになれてジンクスから解放されたと思っていた。


そうであって当たり前だと思っていた。


でも、違うとしたら?


教室まで戻って来たあたしは、いつもの調子で健へと近づいた。


健はすでにお昼を食べ終わっている。


「ねぇ、健。今日の放課後遊びに行こうよ」


「今日はサッカーがあるんだ」


健は躊躇することなく、そう言い切った。


いつもならもっと優しく、少しなら時間を作ってくれたりする健。
それが、今日は違う。


「そ……っか」


あたしはどうにかそう声に出していた。


あまりに反応が違うため、すぐには対応できない。


ただただ嫌な予感がして、背中に汗が流れて行くのを感じるばかりだ。


健はそれ以上あたしと会話したくないのか、席を立って友人たちの輪の中へと入って行ってしまった。


明らかに避けられている。


「ナツミ、お弁当ありがとう」


杏があたしにお弁当箱を差し出してくれても、それを受け取る事もできなかったのだった。
☆☆☆

放課後、何も予定のないあたしは1人で早々に家へと戻ってきていた。


嫌な予感を払しょくするため、スマホを握りしめて自室へと引きこもった。


ジンクスを行った女性と直接連絡を取る事ができる。


ブログのポストにメールを送るのだ。


わからないことは、彼女に質問すればいい。


《はじめまして、突然のメール失礼します。


あたしはあなたと同じようにジンクスを実行している者です。


このブログを読んで参考にし、順調に進んでいました。


けれど、付き合いはじめてからジンクスをやめると、途端に彼の態度が冷たくなったんです。
ジンクスは付き合い始めたら終わりじゃないんですか?


今でもずっと続けていますか?》


そんな内容のメールを送ってから、彼女のブログを再確認した。


ジンクスを始めた頃、両想いになった頃のブログ。


しかしその後どうなったのかは、書かれていないのだ。


彼女はいつまでジンクスを続けていたのだろうか。


もしかして、今も続けている……?
そう考えると背筋が寒くなった。


長期間に渡ってあのジンクスを続ける事なんて不可能だ。


けれど、続けなければ相手の気持ちが離れてしまうとしたら……?


「そんなの、絶対に嫌!」


あたしは声に出して叫んでいた。


やっと手に入れた健があたしから離れて行くなんて、そんなことは考えられないことだった。


部屋の中をグルグルと歩き回って考える。


もしも、ずっと人肉を食べさせ続けるとしたら、どうすればいい?
どこの部位を切断すればいい?


「そうだ、もっと太ればいいんだ」


ふと歩くのをやめて、あたしはそう呟いた。


彼女のブログにだって書かれてあった。


太い方が食べられる面積が大きくていいんだ。


そう気が付いたあたしはすぐに部屋を飛び出した。


リビングにはお菓子のストックがある。