黒川高校の中庭には暖かな4月の日差しが差し込んでいる。


まだ少し肌寒いと感じる日もあるけれど、今日は丁度よかった。


「で、相談ってなに?」


木製のベンチに座り、一緒にお弁当を広げていた武上花梨(タケカミ カリン)が箸を止めてそう聞いて来た。


あたしは自分のお弁当箱から顔を上げて友人の顔を見つめる。


「なによ、深刻そうな顔して」


そう言って来たのは菓子パンを片手にもっている中居杏(ナカイ アン)だった。


2人とも、この高校に入学してから友達になった。


1年生の頃から仲良しで、3年生になった今年は3人一緒のクラスになれた。
それだけでもあたしにとっては幸せなことだったんだけど……。


「今年で高校も最後でしょ」


あたしはそう言い、またお弁当へと視線を落とした。


共働きの両親が忙しいため、自分のお弁当は自分で作っている。


1年生の頃からそのスタイルが続いているため、今ではなかなかの腕前になっていた。


「そうだね」


杏が菓子パンを頬張ってそう返事をした。


「そろそろ、彼氏とかほしいと思わない?」


そう訊ねる声が、さっきの半分くらいの大きさになってしまった。
友達相手でも、恋の話をするときは照れてしまう。


杏と花梨はあたしを見つめて、その後お互いに目を見交わせた。


「な、なによ」


そう言いながらも、頬が熱くなっているのが自分でもよくわかった。


すると杏と花梨は同時にプッと笑い出したのだ。


「な、なにがおかしいの!?」


笑われたことによって更に顔が熱くなる。


きっと真っ赤になっていることだろう。


「ごめんごめん。でもナツミ、ようやく恋愛する気になったの?」


花梨にそう言われてあたしはグッと返事に詰まってしまった。
実は2人は高校の間に彼氏がいたことがあるのだ。


2人とも今はフリーだけれど、付き合ったことがないのはあたし1人。


そのことは、実は少し気になっていたことだった。


けれど、友達と過ごすことは楽しいし、好きな人を見つめているだけでも幸せだった。


だから、自分から行動を起こしたこともなかった。


でも……。


高校を卒業したら、好きな人とは離れ離れになってしまうかもしれない。


そう思うと、急に焦りはじめてしまったのだ。


このまま気持ちを封印してしまうなんて嫌だ。


最後の1年の間に思いを伝えたいと思っていた。


「ナツミの好きな人って同じクラスの健だよね?」


杏が当たり前のようにあたしの好きな人を言い当ててしまった。


焦っている暇もなく「健って人気者だからなぁ」と、花梨が呟いた。


「ちょ、ちょっと待って! なんで健の名前が出て来るの!?」


「え? だってそんなの」


「わかるじゃん」


杏の言葉を引き継ぐように花梨が言う。
どうやらあたしの気持ちはバレバレだったようだ。


勇気を出して相談したのに、急に脱力していく。


お弁当箱の中のタコさんウインナーも、どこかしょんぼりしているように見えた。


「でも、ついに決意したんだね」


途端に杏が真剣な表情になってそう聞いて来た。


「う、うん」


あたしは頷く。


「普通に告白するの?」


「それは……」


きっとそうなるんだろうけれど、どうすればいいか正直わからない。