木の上から落ちオルキスを下敷きにしてしまったこと、口づけを交わしたのち頬を叩いてしまったこと。

相手が王子だと知らなかったとは言え、出会いの時点ですでにとんでもない失敗をやらかしてしまっていたことを、リリアは今更ながら知ることになる。

ゆっくりと視線を上げると、オルキスににやりと笑いかけられた。


「まだ王子に興味を持てないか?」


リリアは引きつった声を上げながら口元を両手で覆い、目に涙を浮かべた。


「おぉ、そこにいるのはセドマではありませんか! お久しぶりでございます!」


セドマに気付いた白髪の男性が、目を大きくさせ歩み寄っていく。


「大変ご無沙汰しておりました。マルセロこそ、昔と変わらぬご様子。何よりです」

「またお会い出来て光栄でございます……えぇとこちらは」


衝撃から抜け出すことが出来ぬまま、ふたりががっちりと握手を交わすのを涙目で見つめていたリリアへと、おもむろにマルセロが顔を向ける。


「あぁ。私の娘です」

「なんと! そうでしたか!」

「……は、初めまして。リリアと申します」


動揺ばかりが膨らみすぎて上手く笑うことが出来ない顔を俯かせて、リリアは片方の膝を折り挨拶をする。