「おおっ!……ソラナ様!」


白馬は速度を緩めることなく、老婆の横をあっという間に通りすぎて行ったが、リリアには老婆が口にした名前がはっきりと聞こえていた。

目と目もしっかりと合ったため、その言葉が自分に向けられていたのも明白だった。


「……ソラナ、様?」


まさかこんな形で母の名を聞くことになるとは思ってもいなかった。

動揺しながらフードを目深にかぶり、心なしか鼓動が速くなっていく中、リリアは後ろにいるだろうセドマを見た。

すぐに目が合ったが、少し硬くも見えるその表情からだけでは、今の老婆の声がセドマに聞こえていたかどうかまでは分からなかった。

心の中に多くの疑問が生まれたが、しかし今のが母のソラナがこの地で生きていた証しのような気持ちにもなり、それならば探せば母を知っている人を見つけることも出来るだろうし、母のことを知ることだって可能かもしれないと、リリアの中で新たな希望が生まれる。

オルキスが短い掛け声とともに白馬の横腹を蹴ると、白馬も速度を落とすことなく緩やかな上り坂を駆け上がっていく。

ジャンベル城の門を視界に捕らえリリアが再び緊張で身を強張らせると、ふたりの門番もこちらに気が付き、すぐさま槍を構えた。