少し強引にリリアを引き寄せて、オルキスは囁きかけた。


「あぁ。早く会わせたい。リリアのすべてを俺が独り占めするためにも」

「……どういうこと?」


王子と会うことで、どうしたらそういうことになるのかが分からず、再びリリアはオルキスに問いかけの眼差しを向けるも、オルキスはにやりとほほ笑むだけで何の答えも与えなかった。

しかし抱いた疑問は、橋を渡り、モルセンヌの町へと入った瞬間、綺麗にはじけ飛んでいった。

通りには家や店がたくさんに並び、どこを見ても人で溢れ返っている。

ぶつかってしまうとヒヤヒヤするのはリリアだけで、オルキスを始めアレフやセドマも、冷静な顔を崩さぬまま人々の間を器用にすり抜けていく。

通りすがりに見つけたパン屋の規模に驚き、リリアは思わず声を発する。

見かけたパン屋はテガナ村にあるそれより二回りも大きくて、窓の向こうに見えた店内には沢山の種類が並べられていた。

すれ違いゆく女性たちの格好もさまざまだった。

村の娘たちと似通っている飾りの少ない簡素なドレスを身に着けている人もいれば、肩の部分がわずかに膨らみ、そして裾が大きく膨らんでいるような豪奢なドレスを着ている者もいる。