「……素敵」
時計塔とジャンベル城は霞みを纏い、その幻想的な姿にリリアはうっとりとため息を吐く。
馬を止めて程なくして、ものすごい勢いで近づいてくる馬の蹄の音に気付き、オルキスは後ろを振り返り見た。
「オルキス様!」
ほぼ同時に、白馬の両隣でアレフとセドマが馬を制止させた。
「あの状態で逃げ出すのはずるいですよ! 本当に大変だった! こっちの身にもなって欲しい!」
「そうか。悪かった」
思いの丈をぶつけてきたアレフへとオルキスが気持ちのこもっていない謝罪をする一方、リリアは輝く瞳でセドマを見た。
「お父さん! モルセンヌ! 本当に素敵ね!」
セドマはリリアからモルセンヌへと顔を向け、懐かしがるようにそっと目を細めた。
「……そうだな」
しかし発せられた声音は苦しそうにも聞こえ、浮かれ切っていたリリアの気持ちに切なさが入り混じっていく。
モルセンヌの方角からこちらへと仔馬を引いてやってくる老人に気が付くと、オルキスは素早く外套のフードを被り、両隣にいるふたりへと声を掛けた。
「止まらずに、城まで駆け抜ける。さっきの二の舞になりたくなければ、しっかりついてこい」