アレフは深く頭を下げてから、そっと扉を閉めにかかった。


「あのっ、閉めなくて良いです! すぐに降りますから! オルキス様、降りましょう! もちろん降りますよね!?」


慌てふためきながら言い並べたリリアに、オルキスは不満の眼差しを向ける。しかしすぐに、仕方ないなと一つ息を吐き、腕の中からリリアを解放した。

先に馬車から出たオルキスの手を借りて、リリアはモルセンヌの街路へと降り立った。


「あえて少し離れたところに停めてもらった。このまま市場を抜ければ、時計塔の真下に着く」


こっそりとオルキスが耳打ちしてきた言葉通り、今リリアたちは市場への入口まで目と鼻の先の所に立っていた。

長い通りの両脇には肉や果物などをはじめ様々な商品を扱っている露店がずらりと並び、通りは多くの人で溢れ、活気が飛び交っている。

誘われるようにリリアが歩き出すと、それを追うようにオルキスとアレフも進み出す。

人々は突然のオルキスの登場に沸き立っていたが、その前を興味津々で歩いている黄金色の髪に深緑の瞳を持つ娘がオルキスの連れだと気が付くと、驚きと興奮が一気に広まっていった。