一枚の布で遮られただけの狭い空間の中で、リリアが甘えるように「オルキス」と熱っぽく呼びかけた時、ギギッと音を立てて馬車が止まった。

ぼんやりしながらそれを感じ取り、ついリリアは扉の方へと顔を向けてしまうが、オルキスは気を逸らすことを許さない。

指先をリリアの頬に添わせて向きを戻し、すぐさま唇を重ねる。

深く求めてくる口づけに翻弄され、再びオルキスとの甘い時間に沈みそうになるも、無神経に感じてしまうほど荒っぽい音を立て外から扉が叩かれたことで、リリアは一気に現実へと引き戻された。


「オルキス様! 到着しました。……開けますよ?」


アレフは不思議に感じているような声で断りを入れてから、勢いよく扉を開けた。

そして中の様子を見て大きく目を見開き、ほんの数秒動きを止める。

唇こそ重ねていなかったものの、抱き合う身体はしっかりと密着し、顔と顔の距離も近く、ふたりが何をしていたのかは誰が見ても明白だった。


「気が利かないやつだ」


顔を真っ赤にさせ涙目になっているリリアを抱き寄せたまま、オルキスがすこぶる不機嫌に文句を口にする。



「……た、大変失礼いたしました。以後、気をつけます」