「おい!和樹っ!おいてくぞ」



雄大が不機嫌そうな声で和樹を呼ぶ。



「待てよー。雄大」



和樹が雄大のもとに走っていく。



「……え?」



雄大はあたしに目線を移すことがなかった。



「ゆ、雄大っ」



たまらなくなって、駆け寄って、雄大のカバンを引っ張る。

雄大の視界に自分を入れたかった。
あたしという存在をないものにして欲しくなかった。



「……なに」


「……っ」



返された言葉に温かみなんてなかった。
そして、冷たい視線があたしに注がれた。
いままでこんなにも冷たい目で雄大に見られたことがあっただろうか。

こんな顔が見たいわけじゃなかったのに。



「用ないなら行く」



感情のないような声でそう言って、あたしの手を払いのけた。



「痛っ」



「……っ」



痛がったあたしをみて、一瞬冷たい表情が緩んだ気がしたけど、すぐにそれは戻された。



「……ど、して」


「行くぞ」



あたしの声なんて聞こえてないかのように、和樹の隣に歩いていく。


……ねぇ、雄大。
雄大と付き合ってたのは、もしかしたらあたしの妄想だったのかな。

そんな考えすら浮かんでくる。

あたしたちの関係はいま、なんというのだろう。



「亜実?」



すごく遠い場所で、香莉菜の声が聞こえた気がする。
薄れていく意識のなかで、手を伸ばすけど、誰もとってはくれない。