「何でもねーよ」



雄大がそっと肩に触れた手をよけて、あたしから顔を背ける。

その手が外されたことよりも、一瞬でも雄大の手があたしの手に触れたことにドキドキするなんて小学生の頃の恋でも体験しているようだ。


〝なんでもない〟
なんて言う雄大だけど、明らかに様子が変だった。
彼はいつだって人の顔をちゃんと見る人だから、顔を背けるのも雄大らしくない。



「でもなんか変だよ?」



もう一度雄大の顔を覗き込む。



「何でもないっつってんだろ!」



突然立ち上がる雄大。



「ご、ごめん」



せっかくいい雰囲気で終われるところだったのに、怒らせてしまってはどうにもならない。



「だいたいお前さ……」



雄大がポツリと話し出す。



「え?」


「俺んとこにワザワザ来て……んなこと伝えてさ。和樹のとこいっちゃうよとでも言って、俺の気持ち取り戻そうとでもしてんの?」


「……っ」



あたしが間違ってしまったのだろうか。
ただ、けじめをつけたかっただけなのに。
けじめをつけることすら許されないことだったのだろうか。