「会いたい」



まずは、そこから。



「春樹、入ってもいい?」



歩との電話を終えて、春樹のいる作業部屋のドアをノックする。



「大丈夫だよ」



春樹の声が聞こえたので、ドアを開けて中にはいる。



「歩と話せたか?」


「うん、さよならしてきたよ」


「……それでよかったのか?」



春樹が持っていたペンを置いて椅子から立ちあがる。



「うん。やっぱり忘れられない」


「お前、バカだな」



フッと笑ってあたしの頭を撫でる。



「うん、バカだよ」



本当に馬鹿だよ。
歩を選べば絶対に幸せなのに。

でも、自分の幸せを考えたとき。
好きな人と別の人と結婚することではなかった。



「ま、諦めが悪いのは兄妹の共通点かもな」


「もう……」



春樹が想ってきたのは、他でもないあたしなわけで。
それを言われると、なんて返したらいいのかわからなくなる。



「冗談だよ。でも、歩なら安心して亜実を任せられると思ったのにな」