『亜実、あそこでずっと働くつもり?』



夜。
百合さんと会っていくらしい春樹からの電話。



「今週と来週の月曜日だけだよ」


『やめとけよ。今日だけにしておけ』


「なんで?」



どうして春樹がここまで反対するのかわからなかった。
別にこのお店はそこまで激しいことを求められるわけでもない。
キャバクラといっても、お客さんと一緒にお酒を飲むだけだ。



『後悔することになるから』


「あたしは楽しんでるもん!」



今日だって、春樹が帰ったあともいろんなお客さんとお話して楽しんだ。
いままで美容師としてしか、知らない人と話さないあたしには新鮮だった。

それに、美容師でもトークは必要だから。
そのための勉強にもなるかなって思ったんだ。



『知らなくてもいいこともある』


「知らなくていい世界なんてない!」


『世界じゃねぇ、事実だ』


「そんなの、ない!」



知らなくていいってなんだっていうのよ。
あそこで働くことのなにがいけないというのか。
春樹だってあのお店に行ってるくせに。