雨が恋しい。

 しとしと降り注ぐ雨の音に耳を傾けていると、いつの間にか深い静寂に溶け込んでいく。

 雨が降ってくれればいいのに。

 優しく降り注ぐ雨はきっと、渇いた大地に染み渡るように私の憂鬱も洗い流してくれるはず。

 そんな私の願いとはうらはらに、窓の向こうから聴こえてくるのは、澄み切った夏空に映える蝉の鳴き声と、熱気を含んだ街の喧騒だけだ。

「美雨ちゃん」

 男が私の名前を呼ぶ。

「何考えてるの?」

「べつに……何も考えてないよ」

 私は微笑んでそれだけ答えると、腕を回して男の背にしがみついた。

 エアコンの冷気が湿った肌に触れる。
 
 男が私の中に入ってくる。私は深く息を吐いて腰を浮かせ、男を迎え入れた。