「おはよう」の交わし合いは高校に入って、先生とは何度かあるが、同年代の人とは初めてだったから凄く嬉しかった。

今の私なら、どんなちっぽけなことでも嬉しく思えてしまうのかもしれない。

……なんていいことだろう。


しかし、だからと言って自分から声をかけることなんて到底出来そうになかった。

(いや無理……自分からとか、絶対無理!)

あまりの意気地の無さに、心の中で失笑してしまう。

諦めて本を読もうとして、鞄からブックカバーの掛かった文庫本を手に取った。

特に読書が趣味だったりする訳ではないが、こんなにも高校生活が暇になってしまうと、することがないので、本を常に持ち歩くようになった。

少しだけ話を盛ると、読書家と言ったところ。

今は10月中旬頃だが、この1ヶ月で既に私は文庫本を4冊読み終えている。

母には「これで国語の点数が良くなれば良いのに」と小言を言われる。

何を隠そう、私は国語の点数がすこぶる悪い。

せいぜい頑張って、やっと70点くらい。

今までに取った最高点は82点だっただろうか。

それ以降は、その時の自分が幻だったんじゃないかと自分でも思うほど点数が下がった。

他の教科はそれ程でも無いのだが。

「佐伯さん、これお願いしていい?」

振り向くと、同じ学級委員の人だった。
困ったような声をしているが、顔は唇が緩んでいる。…まるで、私を馬鹿にしているような。

「えっ?あ、どれですか…」

とぼけたフリをしてしまった。
何となく、察したのに。

「これ。 学級委員でやれって言われたんだけど、俺今日ちょっと無理っぽいんだわ」

私の予想は見事的中。
多分、遊びに行くのだろう。

「……はいっ、分かりました、やっておきます」

私はこの人と違って放課後何も無い。
この人も私が遊ぶ相手が居ないことを分かっている。

(……こういうのって、面倒臭いってよりも自分で自分を可哀想だなって思えてきちゃうんだよなぁ)

酷く、惨めだ。