どう頑張ったって無理だった。

思えば、こんなノート一枚なんて黒板に貼っといて、「名無しです」なんてメモを添えおけばいいものじゃないか。

何を悩んでるんだろう、と深く悩みこんだ自分が可笑しく思えて来た。

少しだけ躊躇った後、後ろを向いて黒板にノートを貼り付けようとした、その時。

「お前、声ちっせーな」

その人は荒っぽく、私の手からノートを奪って、「これ誰の?」と大声を張り上げてクラスの人に聞いた。

こんな騒がしいのに、声なんか届くはず…なんて、どの立場から見下しているのか突っ込みを入れたくなったが、どうせ私のときの反応は変わりないだろうと、彼の行動をせせら笑った。

(無理に決まってるでしょ)

心の中でも、はっきりと確信した。
どんなに声がデカくても無理だと。

本当に、どの立場から私は見下しているのか甚だ不思議である。

「俺出してねぇわ」

「名前書いてるからうちのじゃない〜」

「はー?これ俺らのクラスのじゃないんじゃね?ちょっと見ちゃおー」

ただ立ち尽くすことしか出来ない。

何だ?今目の前で起きたのは。
この人が大声を出すと、皆すぐ反応した。
私の時とは何もかもが違う。

空気も、雰囲気も、皆の表情も。

「え、待って?これ俺のじゃん!」

彼はまた、声を出した。

次はそんなに大きくもない、普通の会話するくらいのボリューム。

「お前のかよ!」

「バカかよ!」

「やーお騒がせしちゃって申し訳ないね」

でもやっぱり、皆私の方に視線は一つもくれない。

隣には居るけど、認知されてないのか。

(……凄い、この人)