私はじめじめした6月は嫌い。
でも今年は違う!!
なんてったって、修学旅行があるから!
そして、今日は待ちに待ったその日。
いつもの制服にいつものリュックなのに、今日だけキャリーバッグがお供する。
学校にはほとんど皆がいて、私は同じ吹部仲間の青谷 千祝 (Aoya Chino)と学校に行った。
「結夢と千祝、おはよっ」
門をくぐったら皆がいた。
「その、キャリー可愛い!」
いつもと違って、皆テンション高め。
そうだよね、私も楽しみ!!
テンション上げてこっ!!
バスに乗ってもいつもの2組と変わらなくて、うるさくて、でも楽しくて。
教室をぎゅっとバスに詰め込んだみたい。
女子は後ろに座ってるんだけど、前で岩倉たちがはしゃいでる。
杏音はそれを見て子供だなぁって笑ってた。
空港について飛行機に乗る。
離陸する時に少し、体が浮いてドキドキしちゃう。
でもそれを超えると、窓からはすごく綺麗な景色っ……!
雲が、雲が下にあるよ~!!!
いつのまにか見つめちゃってた。
お弁当を食べたらいよいよ鹿児島到着!!
飛行機から降りた時はむしっとしてて、ますますテンションあがる~!!
「では、自分のキャリーバッグを取りに行ってください」
先生が指示をすると、皆がわらわらと取りに行く。
今日のために買ったお気に入りの私のキャリーバッグは白色。
でも人がいっぱいで取れない……!!
ちょっと待って人がすいてから取りに行こ~。
「はい」
え?
目の前にはいつの間にか、私の白いキャリーバッグが。
「え、あ、ありがとう」
顔を上げると、そこには岩倉がいた。
どきん。
えっ?えっ?
……岩倉が、取ってくれたんだ。
その途端胸がドキドキして、嬉しくて。
もう、修学旅行の思い出が出来ちゃったよ。
岩倉にとって、今のことはほんと些細なことかもしれないけど、私にとってほんとに嬉しかった。
私はぎゅっとキャリーバッグの柄を握りしめた。
ガラガラとキャリーバッグを引きながらバスに乗り込み、民泊をするおばあちゃんとおじいちゃんに会いに行く。
私が岩倉が好きなことを杏音も千祝も知らない。
違うクラスの立山 乃望(Tatiyama Nozomi)だけが知ってる私の秘密。
民泊では班に分かれて、おうちに行く。
2人とも優しそうな人でよかったぁ~。
これで班の人以外のクラスメイトには明日まで会えない。
なんか寂しい気もするけど、楽しむもんねっ。
お昼ご飯や夜ご飯を食べながら、おばあちゃんと話をする。
おばあちゃんがおじいちゃんを選んだ理由とか、ほんとキュンキュンするような話を聞かせてもらった。
昔も今も、恋する気持ち、っていうのは変わってないんだなぁ。
夜はもちろん恋バナでしょ!
まぁ、私は好きな人がいない設定で今年も押し通した。
あの人とあの人が付き合ってるとか、そんな話を夜中までやった。
その人の中に岩倉の名前が無いことに、ほっとしてる自分がいる。
重症だよね、私。
朝、海に遊びに行った。
水着はないから泳げなくて、貝殻を拾ったり足をつけたりするだけだけどね。
こんなに透き通ってて綺麗な海は初めてみたよ・・・。
少し行ったところにに同じクラスの男子がいる。
多分あの中のあれが岩倉。
ズボンの裾をびちょびちょにして、上の服を脱いでみんなで飛び込んでる。
男子って女子より精神年齢が2歳低いって聞いたけど、ほんとその通りだよね。
杏音は男子ってバカだよなぁ~って笑ってた。
ほんと、バカで鈍感で気づいてくれない。
ちょっとぐらい気づいてくれてもいいのにさ。
まぁ私だって、アピールが足りないんだろうけど・・・。
おばあちゃんとおじいちゃんとお別れしてから、次はフェリーに乗って屋久島へ。
屋久島では平和学習をした。
特攻隊の方の話を聞いて、つくづくこの時代にうまれてきてよかったって感じた。
その日の夜はホテルでレク大会。
借り人競走で、リア充が一緒に走っている。
なんでこんなに修学旅行はリア充が増えるんだろ・・・?
次の日のお買い物は家族へのお土産を買い占める。
サックスメンバーでお昼を食べたりして、ほんと楽しい!!
白百合中の人で、付き合っている人同士で回っている人もちらほらいる。
ペアルックして、おそろのキーホルダーなんて、憧れちゃうなぁ……。
相手はもちろん、岩倉、だなんて自分で妄想して嫌になる。
付き合う、だなんて夢のまた夢なのに。
しかも、もし付き合えても岩倉はそういうキャラじゃないの。
ペアルックとか、おそろいとか多分嫌うんだろうな・・・。
岩倉は普通に男子と回っている。
それをついつい、目で追っちゃってる自分がいる。
そして、修学旅行は終わった .*・゚
本当にすごく楽しかった。
期待してたみたいなキュンキュンすることも、岩倉と仲良くなれることも特に無かったけど。
でも、キャリーバッグを取ってもらっただけで岩倉のことをますます好きになってしまった。
あれだけでもう嬉しかったからいいの。
私の秘密をいつか岩倉に伝える時は来るのかな……。
そして、修学旅行が終わったらいよいよ受験生の自覚が芽生え始める。