ふぅ。
爽やかな5月の風に乗せて、私は息を吐いた。
始業式の時にはあたり一面桜のピンクだったのが、いつのまにか緑の葉っぱが茂っている。
私はサックスを首からかけながら、辺りを見渡していた。
今は個人練習の時間。
今は風が気持ちよくて外でするのがお気に入り。
他の人の練習している音も聞こえなくて、吹きやすくて気持ちいいっ!
「ありがとうございましたー!!!」
グラウンドから聞こえる野球部の声。
練習が終わったのかな?
今日はお昼までなんだなぁ。
そんなことを考えながらも私はいそいそと校舎のかげに隠れる。
それは、2年の時から気になる岩倉 陸翔(Iwakura Rikuto)がいるから。
岩倉とは3年間同じクラスで1年の時は何も感じていなかったのに、いつのまにか好きになってた。
3年連続同じクラスって奇跡だし何か何かあるかも!
なーんて期待してた。
だけど1ヶ月経っても何も変わらない。
3年の付き合いだからといって、仲良いわけでもないし。
話せたら、その日1日がHappyになるような、そんなレベル。
でも、まだまだ1ヶ月しかたってないもんね。
これから修学旅行も体育祭も合唱コンクールもある。
未来に期待しよう。
私はうんっと1人でうなずいて、また譜面に向き直した。
マウスピースを口に加えて、また同じ小説から吹き始める。
岩倉に聞こえてるといいな、この旋律。
5月になったら待ちに待った席替え。
緊張しちゃう。
あみだくじのちょっと曲がった線の上に名前を書く。
全員の名前を書き終わったら、いよいよ発表。
前の黒板に磁石がついた名前カードが貼られていく。
1番前になった男子が叫び、近くなった女子がはしゃぎ。
1ヶ月に1回のありふれたイベントなのに、心が踊る。
だってやっぱり誰でも、好きな人の近くになりたいもん。
「ええ!!最悪~」
横から大きな声がして、私はびっくりした。
「あ、杏音!どこだった?」
私の隣にいる杏音はいつもと違い暗い顔をしていた。
「1番真ん中の前っ!しかも隣湯木だよ!?同じ女子の班は田原さんだし、終わった…」
「ちょっちょっ、!」
1番真ん中の前。
ということは教卓の前・・・。
あ、先生のど真ん前が大当たりしちゃったのね・・・。
杏音の隣の湯木っていう男子は少し変わった男の子。
クラスの男子と絡んでるのは見たことなくて、いつもいつも勉強しているか寝ている。
それと田原さんもすごく静かな女の子。
でもクラスのことに影で頑張ってくれてるから、すごくいいこだと思うんだけどなぁ。
2人ともフレンドリーな杏音でさえ、話したことない人だから不安なんだろうね・・・。
「杏音~。席が離れても休み時間とかは行くからさ?」
「絶対だよ!?!?もー、やだからね、1人は」
私は黒板のほうに向き直す。
あっ!!
自分の見るの忘れてたっ!
よーく見ると、1番後ろの席の場所に見慣れた文字があった。
『安沢』
「やったー!!!」
私が喜んだら、杏音は恨めしそうな顔をして
「結夢のばか」
とつぶやいた。
ごめんって謝りながらも、岩倉の席を確認する。
前の方だから私とは離れているなぁ…。
それなら杏音の方が近いじゃん。
少しがっかり。
6月は一大イベントの修学旅行がある。
今年は鹿児島と屋久島!
大まかなプランは1日目が民泊、2日目が屋久島、3日目がお買い物で帰宅。
すごくすごく楽しみ!
今日の学活ではそのメンバーを決めた。
もちろんホテルメンバーと民泊メンバーは、杏音と一緒。
お買い物はサックスメンバーで回るつもり。
早く用意もしなきゃなぁ~。
杏音とおそろいの服とかも可愛いかもっ!
あ~、はやくこないかなっ!
このクラスのメンバーでもう2ヶ月も過ごした。
早いなぁ、。
あんがい卒業なんてあっという間なのかもしれない。
そう思ったら少しだけ寂しくなった。