「ゆーめ!今日暇? 部活ないし、クレープ食べに行かない?」



春の陽気が暖かい休み時間、友達の藤方 杏音(Huzikata An)が話しかけてきた。



「うん、いいよ。私も久しぶりに杏音と語りたいしね」


教科書を机の奥へと突っ込みながら私は返事した。



私は安沢結夢。

中学3年生。

吹奏楽部でアルトサックスを吹いてる。



今日クレープのお店に誘ってきたのは吹部仲間、クラリネットパートリーダーの藤方杏音。

コンクールでソロを任せられるぐらい上手くて、私も密かに憧れている。

気も合うし大好きで、親友とも言えちゃう友達。



「じゃあ、放課後むかえにいく!」


「ありがとうっ」



杏音の言葉に私が笑うと授業の始まりを告げるチャイムが鳴った。




放課後。


「志望校とかさ、決めた?」

「ううん、まだ」



ここは、クレープが有名なカフェ『ふわり』。


具沢山で何種類もあるクレープが安い値段で食べられるから、お小遣いが少ない学生でも食べにこれちゃう。



私ももう受験生。

志望校も決めなきゃな~。

塾で『〇〇高校!』とか、『偏差値60!』とかよく言われるけどいまいち、ピンと来ない。


今は春の陽気に包まれて、勉強の事なんか考えたくないっ!


って、私浮かれすぎかぁ…。



「一応行きたいところは決めてみたの。まぁ、勉強で無理なんだけど」


えっ…!

私は驚いた。

杏音、もう決めてるんだ…。



「……どこ?」


「ん? あぁ、北海。
吹奏楽も強いし、校風もいいし、制服がすっごい可愛いんだ!
お姉ちゃんが行ってるから、なんか憧れちゃうんだよね~」


北海高校。

皆が知ってる高校。

この辺りではトップ高校から、4校目ぐらい。


偏差値も高いし、私の成績で行けるかどうか……。

って、私、同じ高校行こうとしてる。


もちろん、杏音と同じ高校に行きたい。


だけど、杏音は私がついてきたら、ウザイだろうなぁ…。



「そっかあ……」


その時私が食べたみかんクレープは少し酸っぱい気がした。



こうして、私の中学最後の1年間が始まったのです .*・゚