ゆらゆらと揺れるキャンドルの灯りが、影を作る。

壁一面に伸びる影は、まるで襲い掛かる寸前の悪魔か何かのようで、思わず視線を逸らした。

脚立に登り、天井まで届く本棚の、一番高い棚の端から赤い表紙のノートを手に取り、開いた。

過去の自分が綴った文字を見、胸の奥が一瞬、小さく痛むのを感じる。
後悔にも似た、微かな痛み。

けれど二、三瞬きをして、すぐにそれを打ち消してノートを閉じる。

音を立てないよう静かに脚立を降り、備え付けの机の上にノートを置いて座る。

キャンドルの灯りだけの室内は暗く、けれど電球の明かりは付けずにノートを開き、ペンを取った。

風か、雨のせいかも判別がつかない程に窓は揺れ、世界を轟音が支配する。

鬱陶しい程にまとわりつく嵐の音に、小さく舌打ちをした。


有本菜摘。

少女から女性へと成長を遂げつつあった友人の名をノートに記す。

ペンを止め、その文字を見つめる。

消えた踊り子。


――天使は裏切り者の踊り子に、天罰を下したのだろうか。


ノートを閉じ、キャンドルの火を吹き消した。
瞬間訪れた偽りの無い暗闇は、嵐の叫びによく似合う。