カウントダウンは始まった。


手入れの行き届いた芝生の上を歩く。
舞台の脇にある階段を上り、舞台の上に立った。

いつもより腰の高さ分だけ高い視点から、遠くの塔を見つめる。時計の針は、四時二十分を指している。

あの塔のどこかで、今頃菜摘は何をしているんだろう。

口元が、微かに緩む。

塔を囲む木々が静かに揺れた。
風が、私を抜けていく。
目を細めて、塔の入り口に微かに見えた人影に視線を合わせる。

制服を着た、後ろ姿。
その姿は遠く、個人は特定出来そうに無い。


――陰。


ふと、その存在を思い浮かべる。
誰にも気づかれないよう、踊り子を監視すると云うその存在。

辺りは微かに暗くなり始め、その人影は更に闇に紛れ始める。


「桜坂さん、今よろしいかしら?」

呼び掛けられた声に、笑顔をつくって振り返る。

「えぇ。今行きます」

答えを返してから、舞台を降りるために階段へ向かう。
階段を降りる瞬間塔へ視線を這わせると、すでに人影はそこに無かった。