「それじゃあ、私はこれで失礼いたしますわ」

優雅な動作で席を立ち、菜摘は羨望の視線を背にして食堂を去っていく。

踊り子に選ばれた生徒は、降臨祭までの一週間の間、塔で踊りの練習のために朝早くから夜遅くまでの間ずっと、塔に籠りきりになる。

誰に、どの様に踊りを教わるかは踊り子のみが知ることで、暗黙の了解として、誰も詮索はしない。

「素敵ですわね、有本先輩」

憧れを込めた声が背後から聞こえ、振り返る。

「有本先輩ならきっと衣装も着こなして下さるに違いないわ」

欠片ほどの嫌味も落胆も見せず、完璧な笑顔を浮かべて小町さんが菜摘の背中を見送りながら言う。

「そうね。彼女はきっと天使様を裏切らないわ。……裏切ったりしたら、どうなるか……」

小刻みに震えた声で呟いて、朝生さんが立ち上がる。
伏し目がちなその瞳の奥までも微かに揺れているようで。

「朝生さん、どうかなさったの?」

控えめに囁きかけたその声は、朝の喧騒に紛れ
きっと彼女の耳へは届かなかっただろう。