だって、誰もいないのだから。

近くの壁に寄りかかり、しゃがみこむ。

『会いたいよ。【あなた】に会いたい。』

ポツリと呟く。

1人で親父と話すのは、辛いんだ。やっぱりどれだけ成長しても、あの人と向き合う心は……。


あの時の傷をまだ持っているのだから。

向き合う時は、一緒にいてくれるって言ったよね。

きっと、婚約の報告の時だよね!っとか言ってさ。その時は、俺も隣にいるからって。

あの時は、今いる環境が揺るがない、揺るぎないものだと信じていたから。

でも、まさか1人で向き合うことになるとは思わなかったんだよ。

だから、疲れちゃった。

ねぇ、?

いつものように抱きしめて。お疲れって。苦しいくらいに抱きしめて。

そしたら、私の疲れも緊張もほぐれていく気がするの。

そんな資格は無い?それでもいい。

なら、会うだけでもいいんだ。

だから。だから、さ?

『早く目を覚ましてよ。会いたいよ。』






_________同時刻。



「里香、ごめんな。」

寂しそうに呟いた男。その男は、前髪を握りしめ苦しそうな 悲しそうな 寂しそうな 諦めのような。

あるいは、全部の感情が混ざった様な顔をしながら呟く。

その男の机には、1枚の写真が置いてある。

そこには、里香とさっき呼ばれていた少女の幼い頃の写真と、この男をもう少し若くしたような男が幸せそうな笑を浮かべている写真だった。

「ごめんなぁ。」






外では“理事長室”というプレートが窓から入る光によって照らされていた。