うごうごと擦られていたタオルが止まって、何かに傷を撫でられる。

『…、?何やってるの、千歩。』

「ううん、なんでもない。ごめんね。」

どうやら何かは千歩の指のようで。


「傷、痛かったよね。」

『まぁ、負った時はね。』

「もし私たちがその時から友達だったら、里香ちゃんのこと守ってあげたかったな。」


千歩が、私を?

『……、』

それは無理でしょ、とはさすがに言えなかった。軽口でも開けなかった。

『痛かったけど、、まぁ、気にしてはいないよ。ありがとう、千歩。

大丈夫。これは私が生きるために戦ってきた傷だから。』


少し言い方がふるくさいかもしれないけど、千歩が小説とか漫画が好きならこういう言い回しもありかなと思う。

ありかな、とかじゃない。「痛いね!」とか言わずにスルーして欲しい。


「そっか。」

『ん?』

「このキズは、里香ちゃんの人生の証だね。」

『人生の、証?』

「うん。生きるために戦った傷。このキズがあるってことは里香ちゃんが必死に生きてきたってことじゃないの?

生きたいって思って。勲章だね。傷だから勲傷かもしれないけど。」

『なんだそりゃ。』

人生の証、ね。そう表現されるとは思わなかった。

そうだよね。千歩はそういう子だ。優しい子。人に真摯に向き合ってくれる子。



「はい、ながせたよ!」



涙が出そうになったのは、ちょっと内緒だ。