茶髪の小さな男の子がこちらをみる。まるで自分の存在を知ってくれている人物であると懇願するように。

時友が少し困ったような顔をして男の子の前へとしゃがみこむ。

「ごめんね。君の名前は僕達にも分からないんだ。どうして君はここにいるの?」


男の子の目から涙が零れた。泣きじゃくる訳ではない。ただ涙が目からこぼれ落ちる。"それだけ"。

鼻水が出ることも、嗚咽が出ることも無くたんたんと告げる少年に不思議な感情を持った。

「なにかに呼ばれている気がするの。

何かを探している気がするの。ねぇ、お兄ちゃん。一緒に助けてくれる?」


そっと手を伸ばす男の子は時友をどこかに連れて行ってしまいそうで、鳥肌がたつ。

『時友、これ。』


吸い込まれるように瞳を見ていた時友が、声をかけられたことによりハッと意識を取り戻す。

渡したのはハンカチ。優しく目元を拭っている時友はまるで母のような優しい雰囲気を纏っていた。