「見てきてくれるか?」

いつものアホな雰囲気とは違い、ちゃんと総長の顔をしている十勝。

いつもアホな人が真面目になる姿は好きだ。真面目になった時の力が圧倒的に強いければ強いほど。

魅了されて惹き付けられる。

私はそんな雰囲気をまとった十勝にひとつ頷いてトイレへと入っていった。

水道を通って、一個一個個室を確認していく。さすが私立。無駄に設備が綺麗だ。音姫なんかも設置されている。

『居ない?』

お姫様が、いない。

全部個室のドアは空いていた。

居ない。

何故?

連れていかれた?

そうだと仮定して、敵はどこから入った?

『……十勝に報告しなきゃ。』

そう言って足を進めれば見えてくる、切羽詰まった十勝の顔。

どうだったか、と言いたげな瞳にふるふる、と首を振れば「そうか、」と言ったきり考え込んだ様。

『千歩はいなかった。そこから、2つの行動が予想される。

1、連れていかれた。
2、自発的に千歩が出ていった。

どちらかだ。』

考えていることをそのまま口にすれば考え込んでいた十勝が私を見ていることが視界の端に映る。

そんなものを見返さずに前を向いたまま続ける。

『十勝がトイレに入っていった時に来た女の数はゼロ。だから、もし誰かが侵入してきた場合はその人は外から入ったことになる。

ここは1階だから、入ってくるのも楽だろう。』