優しくされた嬉しさ
所長への恐怖
兄を救えなかった自分の不甲斐なさ
ひとりぼっちの寂しさ
そしてなにより、こうして抱きしめてもらえる温もりへの安心感…
いろんな感情がごちゃ混ぜになって、涙が止まらなくなって、立っているのも辛くなるくらい泣いた。
「歩けるか?」
「はい…
ごめんなさい、服濡らしてしまって」
「気にするな。
送っていくからゆっくり帰ろう」
「そんな!ここまで付き合っていただいたのに送っていただくなんてできません!」
「俺がどうしておまえのことを知っていたか、聞きたくないのか?」
「あ…」
「ばーか、早く行くぞ」
掴まれた腕が、じわっと暖かくなって、この手が一生離れなければいいのにと願ってしまった。
「本当に…本当に、ありがとうございます」
小さく呟いた私の声が聞こえたのか、彼は優しく微笑んだ。
整った彼の横顔に車のヘッドライトが当たって、その微笑みが私には一段と輝いて見えた。