田中くんの顔を上手く見れなくて、思わず俯く。

ぐるぐると色んな言い訳が頭の中で巡る。

どうしたらこの状況から逃げられるんでしょうか。



「…ねぇ、聞いてる?」



私の目の前には田中くんの綺麗な顔。
まつげ長い…唇潤ってる…肌綺麗…じゃなくてっ!



「なっ、な、は、はいっ!?」



俯いていた顔を勢いよくあげると、田中くんがびっくりした顔をして、その後に少しくすっと笑った。

その姿はまるでおとぎ話の王子様みたい。

うう、やっぱりかっこいい…。

っていうか、この状況って今までで1番田中くんと接近してる…!こんな日ってあるんですか神様…!




「七瀬さんってさ」


「は、はい…えっ、名前、なんで知って…」


「…同学年の名前くらい、覚えてるよ」



びっくりした。
すごく、びっくりした。


私だけが田中くんを知ってると思ってた。


特別とかそんなことじゃなくても、田中くんの頭のほんとのほんとの片隅にでも私の名前があったことに驚いた。

驚いたし、嬉しかった。

こんな小さなことで涙が出そうなくらい嬉しくなるなんて、ほんとにばかだ。