「さて…」
彼に目の前で渡すわけでも、
彼に直接言うわけでもない。
ただ靴箱に手紙を入れるだけなのに、手汗が尋常じゃないくらい出て、心臓がものすごい早足で音を立てる。
入れてしまえばいいのに。
あと一歩の勇気が出ないのだ。
「うーーーん…やっぱり、今日はやめておこうか」
意気地無し。弱虫。
わかっているのに、私の足は靴箱から離れようとしている。
また明日、明日考えよう。
みよっちゃんに相談してみよう。
「…帰ろ」
諦めてカバンに手紙を直そうとしたときだった。
「ねえ、なにしてんの?」
よく通る、すこしだけ低い声。
その声を聞いた瞬間、ぶわっと手汗が滲んだのが自分でわかった。
「っ、た、田中くん…」
少しだるそうに靴箱にもたれかかって、
じっと私を見つめる人。
私の告白しようとした相手、田中くん。
「そこ、俺の靴箱だよね」
「は、はい、えっと、」
「何〜?いじめ?」
「いえっ、そんなことは全く!」
あなたの靴箱にラブレターを入れようとしてたんです〜なんて、言えるわけない。
あぁ、どうしよう。
こんなタイミングあるんでしょうか。
まるで神様が告白しろと言わんばかり。
「その手に持ってるの、何?」
「っ!」