そこまできっちり挨拶をされると思わずに、数秒固まってしまう。
慌ててティーカップを置いて、口を開いた。


「とんでもないです! ……あ、の」


視線が交わる。
先程までの穏やかな空気とは僅かに違う、真剣味を帯びた雰囲気。そこでようやく、私は気が付いた。


「玄くんとお付き合いさせて頂いている、白 羊と申します」


はっきりとそう述べて、頭を下げる。

きっと香さんは最初から気付いていた。そう、思う。


「……顔上げて、羊ちゃん」


言われた通り姿勢を戻して、再び目が合った。
その瞳はもうすっかり優しい色になっていて、眉尻が下がる。


「本当はね。初めて会った時から、羊ちゃんが玄の傍にいてくれたらなって思ってたの」


香さんはそう告げて、綺麗な指を組んだ。
ただの直感だけどね、と付け加えて彼女が笑う。


「男子高校生らしく、年相応に笑ってるのを久しぶりに見たの。学校へ行って、友達と遊んで、好きな子にどきどきして……当たり前のことだけど、それがあの子はできていなかったから」


確かに、以前も聞いた。
真面目じゃない、と。母親の顔をした彼女が言っていた。


「羊ちゃんは自分の影響じゃないって言ってたけど……でも、それでもね。この子は玄のこと、すごく良く見てくれてるんだなって嬉しくて」