水に濡れたのはお互い様だし、アトラクションのせいだし、仕方なかった。
でも私がレインコートを買っていれば、玄くんがパーカーを脱ぐ必要はなかったかもしれない。もしくは素直にお礼を言って早くホテルに戻っていれば、玄くんもそこまで冷えずに済んだかもしれない。

私が変に意地を張って我儘を言ったせいで、余計に夜風に当たらせてしまった。そのうえ傷つけた。


「……もしそうだとしても、羊ちゃんが気に病む必要ないからね」

「え?」


柔らかい声に顔を上げる。


「きっと玄がしたくてしたんだろうし、元々体弱い子なの。だから羊ちゃんのせいだなんて、玄も私も思わない」


そう、だったんだ。玄くんは、体が弱かったんだ。
知らなかった。それなのに、私は彼に酷いことを言ってしまった。


『玄くんの方が繊細でしょ、体育でふらふらしてることあるよね?』


傷つけたんじゃない。私は、侮辱してしまったんだ。


「……ねえ羊ちゃん。玄が起きるまでの間、ちょっと話さない? 羊ちゃんが好きなオレンジティー淹れるから」

「どうしてそれを……」


玄くんのお母さんが知っているんだろう。


「あの子が――玄がね、羊ちゃんはオレンジが好きだからって。夏ぐらいからかな、よく買ってくるようになったの」