うん、ちゃんと返せてる。
とてもじゃないけど狼谷くんの顔を直視できそうになくて、私は考え込むふりをして俯きながら答えた。


「そっか、分かった。ありがとう」

「ど、どういたしまして……」


ありがとうって言ったのか今この人は!?
私の胸中の叫びを代弁するかのごとく、教室内がざわつく。

狼谷くんは女の子に対しては優しいと聞いた。
でもそれはあくまで関係を持った子に対してで、それ以外の子には見向きもしない。勿論、自分は「それ以外」だ。

自分の席に戻っていく彼の背中を眺めながら、しばらく思考が停止した。


「……カナ、戻って来い」


隣で一部始終を黙って見届けていたあかりが私の肩を揺らす。


「ごめん、さっきからずっと幻覚と幻聴の連続なんだけど」

「大丈夫。全部現実だから」


とんとん、と労うように叩かれ、ようやくため息をついた。

その後、呑気にイチゴミルク片手に帰ってきた羊。
いつもとさして変わらないのに、遅いと怒ってしまったのは許して欲しい。