羊ちゃんに合わせて少しゆっくり歩きながら、彼女の方に軽く耳を寄せる。


「ないよ、そんなの。元々今日は羊ちゃんと勉強する予定だったから」

「え……! そ、そっか、ごめん……」


眉尻を下げる彼女に、俺は「気にしないで」とフォローを入れた。

元はといえば、俺から言い出したことだ。
先生の提案なんてその場で適当に流せばいいものだし、別にいちいち真に受ける必要もない。
でも羊ちゃんは真面目に考えていたから、それを利用して少々強引に取り付けた。

だから本来は対等なはずなのに、羊ちゃんがへりくだるから、俺にいいようにされてしまうのだ。
そこが律儀で憎めないところでもあるが。


「羊ちゃん、ここ来たことある?」


しばらく歩いたところで、今年学校の近くにできたカフェに着いた。
時間を潰す時なんかに岬とよく来る。


「あ……! 前に一回だけあるよ!」

「ほんと? じゃあちょっと入ろっか」


羊ちゃんはバス通だから、てっきり来たことがないと思っていた。
しれっと逆に自分が初めてかのような口ぶりでドアを押す。


「狼谷くん、狼谷くん」