こういうときこそ、チャコやユウジと喋って紛らわせたかったけど、チャコは斎藤くんのところへ行ってしまったし、ユウジはいつもの友達と廊下ででもふざけ合ってるんだろう。

あたしは写し終わったノートをチャコの机の上に置いて、溜め息を吐いた。

「アヤちゃん」

色っぽい声がしたな、と思ったらレイカだった。

「カズヤ先生ってイイ男よねえ、土井クンの方がイケメンっちゃあイケメンだけど、大人の男って感じがして、スマートだわね」
「うん、そうだね」
「惚れた?」

恥ずかしげもなくレイカは言った。
あたしはほっぺたの熱を感じて、隠そうとした。

レイカはくすっと笑って、

「まあ、いいわ。アヤちゃん、なんだかちょっと様子が違うなって思って」
「どういう…?」
「うん、なんだかまるで初めて好きになった、みたいな感じ」
「えっ」

レイカはあたしの恋愛遍歴を知ってる。
あたしが、もう純粋じゃないって知ってる。
だからこそ、レイカの言ってることがよく分からなかった。