中三になると、塾に通う子が増えてきた。
あたしも、母さんの勧めで通うことになった。

「西高に行くなら、行っておいた方がいいわよ」

あたしのためを思ってくれてるんだろうけど、ちょっと鬱陶しかった。
どうせなら、コウキが部活を引退するときに、一緒に行きたかった。
コウキと差がつくのって、嫌だし。

コウキは中三になって、三番ショートになった。
どんどん野球に夢中になってるようだったけど、ちゃんとあたしのことも見てくれていた。
夜になると、週に二日、コウキから電話をくれる。
あたしからも、週に二日、電話をする。
そのとき、コウキはいつも言ってくれた。

「アヤ、今日はこんなことしてただろ」
「アヤ、授業中寝てただろ」

あたしの恥ずかしいこともいっぱい知ってるコウキだけど、嬉しかった。

「アヤ、オレが引退したら勉強教えて?」
「いいよ。でも、自分でもちゃんとやっててよ」
「ふぇえ、厳しいなぁ。でもアヤにチューしてもらったらやる気出るかも」
「バカなこと言ってないでやるのよ」
「最近、チューしてないもんなぁ」

コウキは寂しそうな声で言った。
そうだ、そういえば最近は一緒に帰っていない。
あたしたちは、家の前で別れ際にキスするのが習慣になっていた。

放送部を二年生の三学期で引退したあたしは、三年生になってから一度も一緒に帰っていない。

「あ、中間テストの前って部活が休みになるじゃん。そのときにできるよ」
「オレ、テスト嫌い。まあ、アヤが励ましてくれるなら…」

あたしも、本当はコウキに会いたかった。